オンライン教育を即実現。佐賀県ならではの迅速な動き。
新型コロナウイルスの影響により、全国の小中高(特別支援学)校が次々と臨時休校。対面での授業が困難になることを踏まえ、オンライン授業の実現を目的とした「プロジェクトE」が立ち上がった。「E」の由来の一つは教育を意味する「EDUCATION」。学校教育課や教育振興課、教職員課、生徒支援室など教育委員会全体から多彩な人材を集めた。プロジェクト開始早々、苦難の連続であったと見浦指導主幹は当時を振り返る。「メンバー全員、オンライン授業に使うソフトウェアの知見がなかったため、まずはその使い方を学ぶところから始めました。接続、会話、チャット、教材データの添付など、機能一つひとつの手順を覚えるのに必死でしたね」。やっとの思いで基本的な操作を覚えたのも束の間、さらなる問題は実際にオンライン授業を行う先生と授業を受ける生徒、それぞれに向けたソフトウェアのマニュアル作り。「メンバーが先生役と生徒役に分かれ、試作マニュアルに沿ってオンラインの模擬授業を行いました。この書き方だと先生はスムーズに操作できないとか、生徒にこの文字量は多すぎるとか、何度も何度も検証を重ねて精度を高めた末にマニュアルが完成したんです」と、進藤副主査。驚くべき点は、この一連の流れをプロジェクト発足からわずか2日間で実行したこと。県庁内の風通しが良い佐賀県だからこそ為せるスピード感だ。
不慣れな双方向型授業に、先生も生徒も悪戦苦闘…。
マニュアルが完成すると、プロジェクトメンバーが各校の先生たちを対象に研修を開始。わずか10日余りの間に、約30校の先生たちにソフトウェアの使い方を伝達した。しかし、いざ現場でオンライン授業が始まると、数多くの課題が浮き彫りに。「最初の頃は、予め先生の授業風景を撮影し、その動画のオンライン配信を中心に考えていました。でも、データ容量が大きいせいで画面はカクカク。全然勉強にならないと生徒から苦情がきて(笑)当時はデータを軽くする方法も知りませんでした」と語る井上指導主事。また、モニター越しだと黒板の文字がぼやけて見えづらいといった問題も。最終的に、オンラインで対話ができる双方向型を中心とすることに落ち着いた。当初は先生も生徒も、不慣れな授業形態に戸惑っていたものの、次第にコミュニケーションが円滑に進むように。本プロジェクトをきっかけに、連絡や健康確認など授業以外での生徒とのやり取りをオンラインで行うようになった学校もある。山崎係長は「教員の性として、生徒と繋がっていたいという気持ちがあるんです。例えリモートでも生徒たちの様子を知ることができて良かった、と嬉しい現場の声を聞いて安心しました」と笑顔で語る。中にはオンラインに抵抗感を持っていた先生や生徒も、今ではソフトウェアを使いこなしているようだ。
離れていても、心は繋がる。オンライン教育の様々な可能性。
ソフトウェアを使いこなしていくうちに、オンライン授業以外での様々な活用法が見えてきたという。例えば、反転授業もそのひとつ。予め撮影した授業の動画をオンライン上でいつでも視聴できる状態にしておくことで、生徒は空いた時間に予習・復習ができるようになった。塾や予備校の手法を公立の学校教育に取り入れた画期的な事例だ。見浦指導主幹は「先生方もオンラインの可能性を見出して、熱心に色々試しています。中には、独自の活用方法を含めたマニュアルを作る学校もあり、この機会にオンライン教育のノウハウを培おうと積極的。今は学校教育の転換期を迎えているので、先生たちにとって大きな刺激になっているようですね」と現場の様子を話す。また、当初はコロナ禍におけるオンライン教育を目的として立ち上げたプロジェクトだが、思わぬ副産物もあったと語る山崎係長。「オンラインなら色々な理由で登校できない子どもたちに、授業の配信やメンタルケアができるのではないかと思いました。対面でないが故に、本音を話すハードルが下がるかもしれません。生徒に寄り添うことができる一つの新しい方法だと感じます」。オンライン教育はまだ夜明けを迎えたばかりだ。
佐賀だからこそ実現できた。
いつでも教育が受けられる未来へ。
有事にも関わらず、円滑にプロジェクトを実行できた理由を見浦指導主幹に聞いた。「他の都道府県は、まずデジタル端末の確保から始めないといけないのでどうしても時間がかかってしまう。一方、私たちは7年前から“一人1台学習用パソコン”を実現していたおかげで、オンライン授業への移行もスムーズに行えた。ことICTに関しては、全国の自治体の中でトップランナーとして走ってきました」。そう力強く語るように、プロジェクトEはオンライン教育の好事例として他県からの反響も上々のようだ。また、プロジェクトメンバー一人ひとりの使命感も強い。「いくら有事であろうと、子どもたちにとっては1日1日が貴重な学びの時間。悠長に考える暇などなく、早急にオンライン授業ができる体制を整える必要があった」と井上指導主事。それに肯く進藤副主査もこう続けた。「それができたのも、チームの皆がそれぞれの得意分野を生かして懸命に動いたから。今振り返ると、本当にわからないことばかりで大変でしたが楽しかったですね」。プロジェクトEとしての今後の目標は、オンライン教育の様々な形を模索しつつ、コロナによる臨時休校にも備えるという。教育の未来と予期せぬ危機、その両方を見据えて彼らは今日も挑戦を続ける。