目指したのは、花形ではなく、裏方の獣医師。
学生時代から獣医師を目指していたので、高校卒業後は獣医系の大学へ進学。学生たちの多くは「動物のため」に仕事をする臨床獣医師を志望する中、私は「人のため」に仕事をする公務員としての獣医師を志していました。と言うのも、食肉の安全を管理するその職業がなければ、日本中の食卓にお肉を流通させることができなくなってしまうからです。だからこそ、決して華やかではないかもしれませんが、裏方である公務員としての獣医師になるために学業に専念。大学卒業後、一度は他県の職員に就いたものの、次第に「同じ仕事をするなら、自分が生まれ育った佐賀県のために働きたい」という想いが強くなったため、2006年から佐賀県庁に入庁しました。
家畜の健康を守ることで、人々の食生活も守る。
現在は佐賀県の畜産業を盛り上げるため、県庁の獣医師として諸業務に携わっています。例えば、県内の農場で家畜の病気が発生した際に、原因を追究するための状況調査を行い、その結果を元に対策法を指導する「家畜衛生対策指導」。家畜の精液や受精卵を使って種付けを行う専門機関・家畜人工授精所を巡回する「家畜改良増殖指導」。家畜の伝染病の発生を未然に防いだり、万が一発生しても被害が最小限に収まるように促す「家畜伝染病予防指導」。さらには、蜜蜂の病気も家畜伝染病に含まれるため「養蜂振興」にも力を注ぐなど業務内容は多岐に渡りますが、全ての仕事は家畜の健康を守ることで、実際にそれを食べる人々を守ることが目的なんです。
消費者や畜産農家の喜びが、自分の喜びになる。
私には、家族や友人を始め、日本中の人に安全なお肉を届けるために自分がしっかり検査をしなければいけないという責任があります。だからこそ、どんなに疲れていてもいい加減な仕事はできませんし、皆さんに「佐賀の美味しいお肉を安心して食べてほしい」というモチベーションが湧いてくる。例えば以前、私が検査を担当したブランド牛を家族や友人たちに贈ったことがあるのですが、彼らの喜ぶ顔を見たその時は大きなやりがいを感じましたね。また、県内のある農場で家畜の疾病が発生した際、私の考案したまん延防止対策を提案しました。それが功を奏し、畜産農家の方の喜ばれた顔を今でも鮮明に覚えています。人の役に立てたと実感した時は、「この仕事を選んで良かった」と心から思いますね。家畜は生き物ですし、自然に左右されやすい。なかなか思うようにいかないことも多々ありますが、これからも佐賀県を支える獣医師として、目の前の一つひとつの業務に邁進していきたいと思っています。
小さな土地だからこそ 生まれる、大きな利点。
佐賀県の特徴は、都道府県の中でもとりわけ面積が小さく、コンパクトな県であること。実はそれが、実務において大きな利点となります。例えば業務柄、県内の農場を巡回することが多いのですが、範囲が狭い分、移動時間が短く済む。そのぶん、検査や事務処理に割ける時間を確保でき、畜産農家の方々とコミュニケーションをとる頻度が増えるため、自ずと信頼関係が深まります。また、農場の環境の変化に気づきやすくなり、仕事上の提案や相談もカジュアルにできる。つまり土地の狭さが、私の可動域を広げてくれるんです。極端な例ではありますが、他県では「担当している農場に行くのに2時間かかる」なんて話も聞きますので、小回りがきくことは佐賀県の魅力の一つですね。