佐賀と『サガ』シリーズ、奇跡のコラボプロジェクトがその先にめざすもの。
2014年に産声を上げた、佐賀県と大人気RPGゲーム『サガ』シリーズによるコラボプロジェクト「ロマンシング佐賀」。当時の地方自治体の取り組みとしては珍しいIP(漫画やアニメ、ゲームなどのコンテンツを指す)コンテンツとのコラボレーションは、一体どのようにして生まれたのか。これまでのプロジェクトの経緯や手応え、今後の展望。そして、このプロジェクトを通して見据える佐賀県の未来について、現在「ロマンシング佐賀」を担当する2人に語ってもらった。
光枝 剛
佐賀県庁 政策部 企画チーム
福岡県生まれ。2004年、佐賀県庁に入庁。統計調査課や県税事務所、消防防災課、障害福祉課など多岐にわたるセクションを経て、現在は政策部企画チーム所属。「ロマンシング佐賀」プロジェクトを担当している。
市川雅統
株式会社スクウェア・エニックス 第一開発事業本部ディビジョン2 『サガ』シリーズ プロデューサー
山口県生まれ。2014年に始まった佐賀県とのコラボプロジェクト「ロマンシング佐賀」の立ち上げから参画。名作RPGゲーム 『サガ』シリーズでは、『エンペラーズ サガ』、『ロマンシング サガ2』、『ロマンシング サガ3』、『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』などのプロデュースを務める。
PROFILE
※掲載されている情報は取材当時のものとなります。
1本の電話から始まった、 前代未聞のコラボレーション。
光枝
佐賀県と『サガ』シリーズのコラボプロジェクト「ロマンシング佐賀」が始まって、かれこれ8年ほど経ちますね。私は昨年から担当しておりますが、同プロジェクトが始まったきっかけは市川さんと伺っています。
市川
はい。2013年に、私が佐賀県庁の観光課さんにお電話させていただいたんです。と言うのも、その翌年に『サガ』シリーズが25周年を控えており、何かコラボができたら面白いなと思いまして。ダメ元でアタックしました。
光枝
ダメ元だったんですね。確かに斬新な企画ではありますけども。
市川
最初にお電話したら、ご担当者の方が不在だから折り返すと言われて。「まあ、無理だよな…」と諦めかけていたら本当に折り返しの連絡をいただけて。すごく嬉しかったです。
光枝
ちょうどその頃の佐賀県庁は、東京で情報発信をするため、全国の様々な企業や団体とコラボレーションを行い、佐賀県を積極的に全国へPRしていこうという時期だったのでタイミング的にも良かったですね。
市川
おかげで、色々な施策を実施させていただきました。初コラボとなる「ロマンシング佐賀」では、『サガ』シリーズの魅力と佐賀県の県産品や伝統工芸の魅力を体験できるイベントを東京・六本木で開催したり、「ロマンシング佐賀2」では、JR唐津線の車両を『サガ』シリーズのデザインでラッピングしたり、「ロマンシング佐賀3」では、佐賀県立美術館で『サガ』シリーズの原画などが楽しめる「ロマンシング佐賀展」を開催したり…。
光枝
昨年の「ロマンシング佐賀2020」を含めると、計5回もコラボしていますね。私自身このプロジェクトは担当する前から興味を持っていましたし、佐賀県庁内でも注目されていました。
市川
まさか自分がそのプロジェクトを担当するとは思ってなかったですか?
光枝
ええ。全く想像していなかったのでちょっと不思議な気持ちですね。
「ロマンシング佐賀2020」は、 プロモーションを超えて佐賀のインフラに。
市川
光枝さんのデビュー戦でもある「ロマンシング佐賀2020」は、私自身とても苦労しました。なにせ今まで色々とコラボをしてきたので、アイデアが枯渇してきていまして…。
光枝
続けることの難しさってありますよね。毎回の施策が好評なだけに、年々ハードルが上がっているというか。今回、『サガ』シリーズの登場人物をあしらったマンホールを佐賀市内の7箇所に設置したことは大きな話題になりました。
市川
ある種のインフラを作ったインパクトは大きいですよね。
光枝
はい。これまで「ロマンシング佐賀」プロジェクトでは数々のユニークな施策を行ってきましたが、物理的に佐賀県に何かを残すということが難しく。キャンペーンやイベントは期間が定められた施策ですから。当たり前のことではあるのですが…。
市川
正直、当初は「マンホールでいいんだっけ?」という迷いもありましたが、日本のマンホールの6割が佐賀県で生産されている衝撃の事実を聞いてすごく腑に落ちました。企画としてきれいにハマった。
光枝
マンホールだけに(笑)。
市川
うまい(笑)。でも、IPを県のインフラに活用するのは異例中の異例。実現に向けた交渉は相当大変だったんじゃないですか?
光枝
はい。各所への許可取りや申請、協議などでかなり苦労しました。でも、長いあいだ続いている「ロマンシング佐賀」を応援してくださる方も多くて。その思いに助けられましたね。
市川
こういった大胆な企画を実行するのって、民間企業でも躊躇すると思うんですよ。普通は。地方自治体ならそれこそもっと保守的なはず。改めて佐賀県さんのチャレンジングな姿勢に驚きました。
光枝
そこがまさに佐賀県庁の強みのひとつで。新しいことに対して柔軟だし、意識決定がスピーディーなんです。地方自治体として珍しいと思います。
市川
そういった佐賀県さんのご理解のおかげで、とんとん拍子でプロジェクトが進みましたが、まさかの緊急事態宣言の発令。他にもたくさん用意していた企画とマンホールを同時にお披露目できなかったのが唯一の心残りです。
光枝
そうですね。でも、マンホールの出来は最高でした。他にも、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』の中で開催した佐賀県コラボイベントもすごく盛り上がりましたよね。いつも以上に、佐賀県を上手くPRできたのではないかと思います。でも次回の「ロマンシング佐賀」のハードルがまた上がってしまいましたね。
市川
はい、今から頭が痛いです(笑)。
回を重ねるごとに叩き出す、 広告を超えたファン創出効果。
市川
こうして振り返ると、たくさんの人が興味をもってくださったんですね。
光枝
そうですね。東京・六本木で開いたコラボカフェ「ロマンシング 佐賀 LOUNGE」の東京来場者数は4日間でおよそ7,000人。「ロマンシング佐賀3」の時に美術館で行った「ロマンシング佐賀展」の来場者数は約2万人です。
市川
かなりの反響ですよね。
光枝
「ロマンシング佐賀2020」に関して言えば、コラボゲームの参加者数が約25万人。佐賀市内7箇所に設置したマンホールのスタンプラリーの参加者も多く、そういった意味では着実に結果が出ていると言えます。『サガ』シリーズとしてはどうですか?
市川
お陰様で、佐賀県さんとのコラボを面白がってくれるファンの方が多数いらっしゃって。佐賀県さんとのコラボについては、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』をプレイしてくださっている方にも好評で。佐賀県コラボ期間中、一番良い日は、ストアランキング2位を獲得しました。
光枝
2位!それはすごい!
市川
NHKのニュース番組など、普段掲載されないような媒体でも取り上げていただきました。単純に広告をするだけでは得られない高い広告効果があったのかなと。また、そもそも、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』をリリースする際に、この『ロマンシング佐賀』プロジェクトがタイトルのプロモーションに寄与した部分も大きいと思います。そういった結果を出せるのも、光枝さんを始め歴代のご担当者の方が一緒にアイデアを考えてくださったおかげです。佐賀県には、佐賀を世に出すためにも新しいことに挑みたくてうずうずしている職員の方が多い気がしますね。
光枝
そう仰っていただけて嬉しいです。我々も単に時流に乗るということではなく、10年後、20年後の佐賀のことを考えて、世の中がまだ見たことのない新しいことをやってやろうという意気込みでやっています。「ロマンシング佐賀」プロジェクトも、似た前例があったらここまで注目されなかったと思いますし。
地方自治体×IPコンテンツの先駆けコラボレーション。
市川
今や地方自治体とIPのコラボレーションはスタンダードになりつつありますが、「ロマンシング佐賀」プロジェクトは、その先駆け的な存在ですよね。地方自治体がゲームに登場するのって極めて珍しかったかと。
光枝
そういう意味で言うと、地方自治体×IPの地位を確立していますよね。佐賀県の中でも、「佐賀県といえばロマ佐賀」という一定の認知は得られたのではないかと。
市川
今や、企業や団体とIPのコラボはありふれていますが、地方自治体とのコラボに関しては我々以上に成功している例はないという自負はあります。
光枝
そうですね。佐賀県と『サガ』シリーズがお互いに歩み寄っているからこそ実現できていると思います。
市川
我々と佐賀県さんって考え方が非常に近いし、相性が良いんですよね。『サガ』チームも他のゲームとは違う新しいことに挑みたいと常々考えていて。なにか面白いことをしてやろうというのが根底にあります。
光枝
それは私もつくづく思います。だからこそシナジーが生まれて、良いコンテンツが生まれやすい。我々も、市川さんを始めとする『サガ』チームの方々も常に新しいものを求める体質ですよね。
知られざる魅力に溢れた 佐賀県の可能性とは?
市川
佐賀って北から南まで魅力的な場所ばかり。唐津の方は海が綺麗な一方で、佐賀牛がいる島があったり、武雄や嬉野、有明海なども本当に美しい。冗談抜きでこんな素晴らしい土地はないんじゃないかって。
光枝
北と南で全然雰囲気が違うんですよね。玄界灘と有明海で全然違うし。
市川
さっきの日本のマンホールの6割が佐賀県で生産されている話もそうですが、そういった魅力が意外と伝わってないように感じます
光枝
そうなんですよ。まだまだ知られていないところがあります…。
市川
その知られざる佐賀の魅力をお伝えすることを今後もやっていきたいですね。もっとデジタルな部分とかで佐賀県さんとうまくできるといいなと思います。例えば『サガ』シリーズのゲームの中で、佐賀県の名産品が本当に買えてしまうとか。魅力的な県産品が多いから、説得力もあるし。そういったことをきっかけに佐賀県にもっと興味をもつ人がたくさん出てくればいいなと思うんですよね。
光枝
それは面白いですね!「ロマンシング佐賀」は佐賀県と他県の方とのゆるやかなつながりを創出するという目的のもと行っているプロジェクトでもあるんですよ。定住人口でもない、観光でもない、根強い佐賀ファンを創出する。知事の言葉を借りると「異空間関係人口」。定住人口ってソリッドなものですが、異空間関係人口なら無限大。その数がゆくゆくは定住人口を超えてくれたら面白いと考えています。そういった可能性もあるのではないかと。
市川
これからの地方創生のスタンダートになるかもしれませんね。
佐賀県の未来を担うのは、未知を好むチャレンジャー。
光枝
そんな佐賀県を盛り上げてくれる人を絶賛募集中です。
市川
大きな組織ですから様々な方が必要なのでしょうが、新しい分野に挑戦するのが好きな方はとりわけ向いているんでしょうね。「ロマンシング佐賀」プロジェクトのはじまりがそうだったように、前例がないことって、それ故にブレーキがかかってしまう場合も多い。でも、勇気と好奇心を持ってやり切れば、ポジティブな何かが必ず生まれるんですよね。
光枝
同感です。私たちはとにかく新しいことを模索しているので、そういった考えに共感してくれる方は大変ありがたいです。「ロマンシング佐賀」でも新しい取組をどんどんやっていきたいと思っています。面白くて佐賀県のためになる企画を一緒にすすめてくれる方にぜひ入ってもらいたいですね。まさに、これからの「ロマ佐賀」の話をしたいです。
市川
そういえば、今年から佐賀県職員の採用サイトのコンセプトは「公務員という、職種はない。」だそうですね。世間一般で思われているような公務員=事務処理的な職業ではなく、佐賀県職員の仕事は、情熱のもとにそれぞれの役割を追求するものである、というメッセージが込められていると聞きました。
光枝
そうなんです。じゃあ、私の役割は?と考えたときに思い浮かんだのは「佐賀県の営業マン」でした。県職員って佐賀を売り込む姿勢がなにより重要だと思うんですよね。そのために佐賀のよいところを常にたくさんインプットして、世の中の流れや向き合う人の興味に合わせてプレゼンテーションし続けていく、という。
市川
いいですね。光枝さんのような佐賀県職員の方がもっと増えたら、「ロマンシング佐賀」はもっとパワーアップしそうですね。これからも末永くよろしくお願いします。
光枝
こちらこそよろしくお願いします。